S.O.C

森千裕個展「テニス肘」

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2016年11月26日(土) > 2017年1月21日(土)
12:00-19:00(日・月・祝日休廊)(冬期休廊: 12月23日 – 1月9日)
11月26日(土)17:00-19:00 オープニングレセプション
12月10日(土)17:00-18:00 愛知県美術館館長 島敦彦 x 森千裕 対談

「テニス肘」を調べると、“テニスのストロークを繰り返し行なったことで肘が痛くなる障害です。タオルをしぼる動作をすると、肘の外側から内側にかけて痛みが生じる症状で、中年以降のテニス愛好家に多い疾患です。”と、あります。

森が展覧会タイトルとして用いた「テニス肘」というひとつの身体的症状は、リタイア後に時間とお金に余裕が生まれ、憧れていたテニスを急に始めた世代に多く生じる症状
として現代社会の様相を浮き彫りにするかのようです。森は、この展覧会タイトルに、
彼女の作品の中に度々登場する、スポーツ、身体、はっきりしない不穏な病気(不眠症など)、
そして言葉の接続や響きの面白さ、などを反映させています。

「授業中、教科書やノートに落書きをしていた。現代社会が社会の教科書ならば、その上に
落書きやシールを貼付けるように、ルールを勝手に組み替えるような行為を続けてみたい」
と、森は言います。

家に着くとフラッシュのように現われる夜の都市のネオンサイン、耳について離れないコマーシャルソング、じっとりとまとわりつく夏の湿度、など、森の作品からは常に都市(都会)とそれにまつわる人間社会の営みが感じられます。そしてその都市とは、彼女が身を置き常に徘徊し観察している都会であり、森は都会に潜む日本の現代社会が孕んでいる現状を、繊細に時に大胆に作品に写し取ります。

作品の表現形態は様々で、日常的に描き貯めた膨大な量のドローイングを主軸として、絵画、写真、立体、映像、レリーフ、ライトボックス、ウォールドローイング、本、など多岐に渡り、これらはシリーズ作品としてランダムに現れます。森は、ドローイングと同様に、親しい人との会話のなかで他人から放たれる言葉の断片や、看板の文字やロゴ、電車の向かいに座ったおじさんのスポーツ新聞の見出しの一文など、衝撃的に耳や目に飛び込んでくる文字や言葉も日常的に書き貯めており、都市に散らばるそれらの言葉の断片を掻き集め、持ち帰り、幾つかは数年間発酵させ、時空を超えてイメージと組み合わせ(幼少期の落書きも含め)、素材や技法を考案し、最も相応しいアウトプットの方法を模索実現させます。

こうした都市や記憶、時間、言葉の断片的要素の衝突は、森の作品の中であらゆる手段を用いて躊躇なく繰り返し行われます。それらは都市の中に無意識的にはびこる制度に対する漠然とした不安や拒絶感、盲目的に張り付く固定観念への疑問へと繋がり、一見するとユーモラスに見える森の作品の中に滲み出る生の不条理さ、面白さ、残酷さと、バラバラに引きちぎられそうな意識や身体の中でのそれらに対する抵抗と受容を表しています。

今回の個展では新作に加え、初のフォトブックとなる「もりサッシ1」を刊行予定です(定価JPY1,000-(税込))。12月10日(土)には、愛知県美術館館長島敦彦氏との対談も予定しております。

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